中谷塾開講にあたって

皆さんこんにちは、中谷明彦です。

私がモータースポーツを始めたのは1973年、レーシングカートからでした。今でこそ入門カテゴリーとしてレーシングカートはすっかり定着し、たくさんの優秀なレーシングドライバーが生まれ育っています。その後に続くカテゴリーもFJからFN(フォーミュラニッポン)まで数多くあり、ステップアップには事欠かないシステムが欧米並に確立されているといえます。私もその中の一人として国内トップフォーミュラであった全日本F3000(今のフォーミュラニッポン)で優勝するまでの実績を上げることができました。

しかし、その過程においはて実に多くの疑問や難問に行き当たり、その解決には多大な労力とエネルギーを費やしたものです。プロレーシングドライバーの世界では自分の築いたキャリア、知識はすべて貴重な経験則であり、簡単には後輩やライバルに教えたり証したりしないのがあたりまえ。もし、教えてもらえたとしても、他人の経験則が自分の役に立つとも限りません。

そうして悩んでいたある日、私は大学時代の先輩から貴重な助言を受けました。曰く「車は1/2mVの二乗で走っているんだ」と。その言葉を聞いた途端にそれまで疑問だったことや、悩んでいたことがすべて鮮明に説明づけられたのです。これは、車は物理の法則に従って動いているもので、その動きはすべて物理的に説明できる、という意味のアドバイスだったのですが、大学で物理学を学んでいた私にとっては実に有効なヒントとなりました。

さて、最近はドライビング・スクールやレーシング・スクールといったシステムや施設が多く運営されています。それらの多くはドライビングを経験させて理解させる経験則に基づくもので、個人によって経験値が異なるなど画一化したカリキュラムが組めません。そして、理論的な解説などが行われないので、理解度も低いようです。 私は「ドライビングテクノロジーアカデミー・中谷塾」開講に当たり、まず、理論的なドライビングの探究をテーマとしてあげています。物理学的なバックボーンを確立しつつ、私が経験してきたおよそ30億円を超えるレース活動で得た経験則を物理学で補強し「人が、車という機械に乗って、地球上を動く」というモビリティを解き明かしていきます。そのキーワードとなるのは「G」です。実際のドライビングを経験させるのではなく、知識の網が感覚として手足へ張り巡らされ、Gをイメージしながらドライビングを自分のものとしていくのです。ここで学ぶことは普遍の定理の中にあって、時代を超えてカテゴリーやクラスを超えてドライビングを理解していけるのです。

レーシングドライバーを志す人はもちろん、クルマ関係の仕事に従事している人、ドライビングをもっと究めたいという意思のある人、とにかくクルマを愛し、ドライビングを理解し向上させたいという熱意のある全ての方に。